イマドキの研究者はみんな使ってる!?ORCID活用の真髄に迫る
目次
お久しぶりです、さいとう(白)です。開発者ブログには久々の登場です。
今回のテーマはORCIDです。世界中の研究者が固有の識別子を持ち、他の研究者と混同されずに経歴や研究実績を集約できる仕組みとして、ORCIDを利用する研究者が急増しています。この記事を書いている2017年12月時点で、400万件を超えるORCID iD(アカウント)、2,500万件以上の実績情報がORCIDに登録されています。
しかし、ORCIDを利用する研究者が増えてきた一方で、大学・研究機関や学協会では「学術機関としてORCIDを活用するメリットは何か? そもそもどう活用すればいいのか?」という声も少なからずあると聞きます。そこで今回は、研究者だけでなく学術機関の目線でもORCID活用の動向や、活用方法を紹介します。
ORCID活用の動向
まずは国内外におけるORCID活用の動向を紹介します。
ORCID公式サイトの情報によると、すでに3,000以上のジャーナルで、出版システムからの論文投稿時にORCID iDの入力を求めています。研究支援・助成機関であるウェルカムトラストやEMBO(欧州分子生物学機構)での助成金申請には、ORCID iDが必須となっているようです。
また、大学・研究機関の研究者データベースや評価システム、学協会の会員システムにORCID iDを登録し、管理する事例も増えています。詳細は後述しますが、ORCIDと各機関のシステムが連携することで、研究者と業績・アウトプットを正しく結びつけられるメリットがあるからです。
海外では、複数の学術機関で構成されるORCID活用のためのコンソーシアムが、現在20団体あります。そして、日本の大学・研究機関、学協会でもORCIDコンソーシアムを設立する動きがあります。
- ORCID Japan Consortium for Research Institutions – 日本の大学・研究機関におけるORCIDコンソーシアムを検討する懇談会
- ORCID学協会コンソーシアム検討会
このような動向から、近い将来、研究者や学術機関は有無を言わさずORCIDを活用せざるを得なくなるとアトラスは考えています。この十数年でDOI(デジタルオブジェクト識別子)がなくてはならない存在になったように、ORCIDも学術活動に欠かせない存在になりつつあるといえるでしょう。
名寄せだけじゃないORCID
次に、ORCID活用のメリットを説明します。
ORCIDといえば名寄せ問題解決のための仕組み、と考えがちですが、実は名寄せはORCID活用の真髄ではありません。もちろん名寄せも大事ですが、他にも非常に重要なメリットがあります。それは信用情報の蓄積です。
たとえばメルカリや楽天などのECサイトでは、出品者を評価する仕組みがあります。評価が高い、すなわち実績のある出品者は、おおむね信頼できるであろうという安心感を購入者に与えることができます。この実績の積み上げは、出品者自身ではできません。信用情報は、第三者からしかもたらされないものといえます。
研究実績はどうでしょう。ORCIDでは研究者自身が自由に実績を登録できますが、この場合は情報ソースとして研究者の名前がプロフィール上に表示されます。ECサイトでいえば、出品者自身で実績を積み上げている状態です。仮にこの実績に詐称があったとしても、本人以外には知る由もありませんね。
さて、ここからがORCID活用の真髄です。ORCIDでは、Web API(Application Programming Interface)を利用して、第三者機関が研究者の経歴や研究実績を登録できます。APIを介して登録した場合、情報ソースには登録した機関名が表示されます。このメリットは、情報ソースに学術機関が明示されることで、より信憑性の高い実績情報を提供できることにあります。
たとえば大学・研究機関での職務経歴、学協会での論文誌掲載や大会発表といった実績を、機関からORCIDへ登録してくれれば、研究者にとっては手間・負担なく信用情報を蓄積できる仕組みになるわけです。学協会にとっては、会員である研究者への付加価値向上が期待できます。大学・研究機関では、より正確な実績情報がORCIDに集約されることで、研究者の評価や採用プロセスに役立てることができます。
このほか、助成機関や出版社なども含めたステークホルダーが多くのメリットを享受できる仕組みとして、ORCIDはますます学術活動の中心になっていくと思います。アトラスサイト内のでじラボや、アトラスジャーナルカフェの連載記事にも解説がありますので、ぜひあわせてご覧ください。
ORCID活用のために必要なこと
ここまでORCID活用の動向とメリットを挙げてきました。以降は、実際にORCIDを活用するために必要なことを紹介していきます。ORCID活用の真髄とした「信用情報の蓄積」を実現するには、前述したAPIを利用する必要があります。
Web API
ORCIDには、PublicとMember、2種類のAPIがあります。それぞれできることと利用条件が異なります。
- Public API
- 実績の検索・取得ができる(公開情報*のみ)
- 無料で利用可、メンバー加入不要
- Member API
- 実績の検索・取得ができる(限定公開情報**を含む)
- 実績の登録・更新ができる
- 年会費を支払い、メンバー加入が必要
* 公開情報:誰でも閲覧できる情報
** 限定公開情報:アカウント所有者がアクセスを許可した機関または個人のみ閲覧できる情報
公開情報を参照するだけならPublic APIでもできますが、実績の登録・更新にはMember APIが必要ということですね。
メンバーシップ
Member APIの利用には、メンバー加入が必要です。詳細は下記リンクから、ORCID公式サイトをご覧ください。
メンバーシップ | 年会費 | 利用権限 |
---|---|---|
Basic |
$5,150 (非営利団体、スタートアップ企業割引あり) |
|
Premium |
$10,300〜$25,750* (非営利団体、スタートアップ企業割引あり) |
|
Premium Consortium |
$3,000〜$6,000** |
|
* Premiumメンバーは、事業規模により年会費が異なります。
** Premium Consortiumメンバーは、冒頭で国内でも設立検討中と紹介したコンソーシアム向けのプランです。コンソーシアムを構成する機関数が増えるほど、ディスカウントされる料金体系です。
ちなみにアトラスは、日本の民間企業では初のORCIDメンバーとして、2013年からPremiumメンバーに加入しています。
Member APIで登録・更新できる情報
では、Member APIを利用してどんな情報を登録できるのでしょうか。詳細はORCID公式リファレンスに記載されていますが、2017年12月時点で登録・更新可能な情報を下記に簡単にまとめます。
区分 | 情報 |
---|---|
パーソナル情報 | 外部システム(機関の研究者データベースやResearchmapなど)のID、URL |
研究者や研究に関するキーワード | |
研究者の別名 | |
国または地域 | |
研究者の個人ページ、プロフィールページなどの外部サイト | |
経歴・実績情報 | 教育(学歴) |
雇用 | |
研究助成、受賞 | |
査読 | |
著作・業績 |
研究者の氏名やメールアドレスを除いて、ほとんどの情報を登録・更新できます。
ORCIDアカウントをお持ちの方はご存知かと思いますが、これらの情報は単一のレコードではなく、それぞれ複数のレコードを登録できます。APIから登録したレコードは、登録した機関だけが更新できます。たとえば、A大学が登録した雇用実績を、B学会が変更・削除することはできません。情報の信憑性を保つため、アカウント所有者自身もレコードの変更はできません(削除はできます)。
登録・更新に必要な認可
Member APIを利用すれば、ORCIDアカウントにいつでも自由に実績を登録できちゃう!というわけではありません。事前にアカウント所有者に認可してもらう必要があります。たとえば、サードパーティーアプリからTwitterを利用しようとすると「○○アプリがあなたのアカウントを利用することを許可しますか?」といった画面が表示されますが、あれと同じ仕組みです。この認可はOAuthという標準的な技術で実現しています。すなわち、OAuthの仕様に準拠した、認可の仕組みが必要になります。
ちなみにORCIDの認可プロセスでは、ORCIDアカウントの所有者は下のような画面から認可をします。
この画面では、以下の情報をアカウント所有者に伝えています。
- Atlasという機関があなたのORCIDレコードへのアクセスを求めています
- Atlasが要求しているアクセス権限はこの3つです
- パーソナル情報の登録・更新(Add or update your biographical information)
- 限定公開情報の取得(Read your limited-access information)
- 経歴・実績情報の登録・更新(Add or update your reserch activities)
ここでAuthorizeボタンをクリックすると、アカウント所有者のORCIDレコードへアクセスするためのトークンが発行され、機関側のシステムへ通知されます。トークンの有効期限内(上の画面で”Allow this permission until I revoke it.”にチェックした場合は20年、チェックを外した場合は1時間)であれば、トークンを使っていつでも実績を登録・更新できます。
アトラスの取り組み
ざっとですが、ORCID活用の動向とメリット、必要なことを紹介してまいりました。
実際にAPIを利用したシステム・サービスの事例として、アトラスでの開発実績を下記に挙げておきます。前述したように、アトラスでは2013年からORCIDメンバーとして、APIを利用したシステム・サービスの開発に携わっています。
また、ORCID関連の国内イベントにもスポンサーやスピーカーとして参加してきました。
開発実績・サービス
- My JpGU:日本地球惑星科学連合様 受託開発
- 会員コミュニケーションサイトMy JpGUの業績とORCIDの業績を双方向で同期
- Altmetric for ORCID:サービス提供終了
- ORCIDプロフィール画面に論文のAltmetricsを表示するブックマークレット
- Editorial Manager:国内販売代理店(米国Aries Systems社サービス)
- ORCID iDによるログイン、複数ジャーナルへのシングルサインオン
- ORCIDへの査読実績の登録(2018年提供予定)
イベント
終わりに
さて、今回のブログはいかがでしたでしょうか。研究者の実績を保証できるのは、学術機関の他にありません。学術機関に対する研究者からのORCID活用ニーズは、今後ますます高まってくるのではないかと思います。もしORCIDの活用でお悩みでしたら、アトラスまでお気軽にご相談ください。
ORCIDの立ち上げ当初からビジョンに共感し、大きな将来性を感じていたアトラスでは、ORCIDを学術界に浸透させていくための活動をこれからも続けていきます!