さらば「日本語論文 to Mendeley」

みなさまこんにちは。プロマネの浜野です。

6年ほど前に私が作った「日本語論文 to Mendeley」というサービスが終了することになりました。「さらば」そして「ありがとう」ということで、サービス開始から今までを振り返ってみます。

開発のきっかけ

アトラスは学協会向けサービスを提供していますが、研究者個人に向けて何かサービスを提供できないか、そんな検討を2011年頃にしていました。ちょうどこの頃にMendeleyがWiredでとりあげられ、日本で少し話題になっていました。Mendeleyはとても便利な文献管理サービスで、PDFを登録すると書誌情報が自動で補完されるのですが、いざ日本語論文のPDFを取り込んでみると書誌情報が自動で補完されない…、という状況でした。

Mendeleyには公式に提供している「Mendeley Web Importer」というサービスがあり、CiNiiなど一部のサービスからは日本語論文の書誌情報をMendeleyに登録することができていたのですが、PDFは後で追加登録しなければならないという点が手間でした。

PDFの登録とともに正確な日本語の書誌情報が保存できたら日本の研究者の方に使ってもらえるだろうということと、学術のトレンドを把握しておきたいということで、「日本語論文 to Mendeley」を開発することになりました。

仕組み

「日本語論文 to Mendeley」は以下の流れでMendeleyに情報を登録します。

  1. Mendeleyサイトで認証しユーザを識別
  2. アップロードしたPDFから論文タイトルを抽出
  3. 抽出した論文タイトルでCiNii APIを検索し書誌情報を取得
  4. 指定された書誌情報とPDFをMendeley APIで登録

1. Mendeleyサイトで認証しユーザを識別

Mendeleyサイトでログインし、Mendeleyアカウントのユーザ名と書誌情報を登録するために使用するMendeley APIのトークンを取得します。

2. アップロードしたPDFから論文タイトルを抽出

アップロードしたPDFの先頭から順にフォントサイズが一番大きい文字列を論文タイトルとして抽出しています。

ただし、ジャーナル名や記事分類などが論文タイトルよりも大きく記載されている場合があります。例えば、次の論文の『プロダクト・レビュー』のフォントサイズが論文タイトルのフォントサイズと同じといった具合です。

「日本語論文 to Mendeley」では、雑誌名などの特定キーワードをタイトル抽出の対象外として設定できるようにしてあり、①の『プロダクト・レビュー』ではなく次点のタイトル候補である②の『論文横断検索サービス「論文検索Qross」』が抽出されるように工夫しています。

3. 抽出した論文タイトルでCiNii APIを検索し書誌情報を取得

抽出した論文タイトルをCiNii APIのOpenSearchで検索し、Atomフィードで検索結果を取得します。フィードの内容を解析して画面に検索結果を表示しています。

「日本語論文 to Mendeley」では多くの論文から該当する書誌情報を探すのではなく、論文タイトルやサブタイトルで絞込んだ候補から書誌情報を選択する想定なので、検索結果は先頭の10件だけを取得しています。

4.指定された書誌情報とPDFをMendeley APIで登録

画面で指定された書誌情報とPDFをMendeley APIを使用して登録します。書誌情報とPDFを同時に登録することはできないので、まず書誌情報追加のAPIで登録し、次にファイルを登録するAPIでPDFを登録しています。

反響

サービス開始と同時に、カレントアウェアネス・ポータルにとりあげていただきました。また、大学図書館員の方が集まるワークショップでデモをしてご紹介したこともありました。積極的にプロモーションはしなかったのですが、大学図書館での利用者向け資料でご紹介いただくことも多かったようでとても嬉しかったです。

そういったご紹介のおかげで、ジワジワと利用が増えていきました。この5年の利用状況を調べてみたところ、のべ6万人の方にお使いいただき、計30万件のPDFが「日本語論文 to Mendeley」を通してMendeleyに登録されました。

Mendeleyは便利だけど日本で使うには…、という痒いところに手が届く位置づけでお役に立つことができたと自負しています。Mendeleyの日本での普及にも一役買えたのではないかと思います。

ビジネス面

「日本語論文 to Mendeley」は無料サービスとしていました。その理由として、元々Mendeley自体がオープンな思想のスタートアップサービスということが大きいです。そのため、機能向上のご要望をいただくことはありましたが、なかなかリソースを割くことができず、利用者の声に応えられなかったことは心残りです。

2013年にはMendeleyがElsevierに買収されるという大きなニュースがあり、Mendeleyの大きな方針変更や仕様変更があった場合に「日本語論文 to Mendeley」を改修するリソースが割けるだろうかと冷や冷やしたこともありました。

今回、サービスを終了することになったのも、保守運用コストとの兼ね合いによるものです。

終了にあたり

ビジネス面ではマネタイズが難しいサービスでしたが、「日本語論文 to Mendeley」をきっかけにアトラスのことを知っていただき、今もおつきあいいただている方がたくさんいます。アトラスには「ご縁を大切に 出会えたことが貴重なご縁。長いおつきあいができる関係を築きます。」というクレドがあり、まさにそれに根ざしたサービスだったと今振り返って思います。

このサービスを通じて、アトラスは学術のトレンドを取り入れたサービスを提供している会社だということを、少しでも多くの人に知ってもらえたなら良かったと思います。

生み出したサービスを終了するのはとても名残惜しいのですが、アトラスの今あるサービス、次のサービスに力を集中して、一層価値のあるものを作っていきます。