PMBOK®︎ガイド 第7版 使いこなせてますか? 〜 実務への活かし方を考える 〜

はじめに

こんにちは、システム開発グループの鈴木です。

PMBOK®︎ガイド第7版の日本語版が公開されてそろそろ1年が経ちます。第7版になって、より概念的で抽象的な内容にシフトしたため、どうやって実務に活かすと良いのだろうという話をちらほらと聞きます。今回の記事では、第7版 プロジェクトマネジメント知識体系ガイドの4章「モデル、方法、作成物」をご紹介し、プロジェクトマネジメントでよく使われるフレームワーク、手法を探すためのインデックスとしての利用方法についてお話をしたいと思います。

PMBOK®︎ガイドとは何か、第7版とはどのような内容なのかについては、以前のPMBOK®︎ガイド第7版についての記事をご覧ください。

PMBOK®︎ガイド第7版は、PMI日本支部の会員になるとPMI日本支部サイトから日本語版のPDFがダウンロードできます。また、書籍はPMI日本支部オンラインショップなどから購入できます。

8つのパフォーマンス領域について

4章「モデル、方法、作成物」の説明の前に、プロジェクトマネジメント知識体系ガイドの主となる8つのパフォーマンス領域の概要について説明します。
パフォーマンス領域は、プロジェクトを成功させるために必要なポイントを8つの観点でまとめたものです。
以下は、8つのパフォーマンス領域とその概要です。

パフォーマンス領域 概要
ステークホルダー プロジェクトに影響を与える、もしくは、影響を受けるステークホルダーと生産的な協力関係を築くためにどのような活動が必要か、どのようなコミュニケーションや関与をしていくべきかがまとめられている。
チーム パフォーマンスの高いプロジェクト・チームへの育成と、それに必要となるいろいろなリーダーシップのスタイル、および、リーダーシップのためのスキルの概要がまとめられている。
開発アプローチとライフサイクル プロジェクトの成果物を創り出すための開発方法(予測型:ウォータフォール型、適応型:アジャイル型、ハイブリッド型などの開発アプローチ)と、プロジェクト・ライフサイクル、フェーズ、および、成果物の提供タイミング・頻度についての定義がまとめられている。
計画 スコープ(プロジェクトで何を提供し、提供するためにどのような作業をするか)、見積り、スケジュール、予算など、プロジェクトの計画要素に何があるか、チーム編成、コミュニケーション、物的資源、調達、変更管理などのプロジェクトを進めていくために必要となるマネジメント要素に何があるか、および、プロジェクトのパフォーマンス測定で使われる計画値についての概要がまとめられている。
プロジェクト作業 プロジェクトを実行していくためのプロセスの確立、競合する制約条件のバランス調整、チームの方針調整、および、コミュニケーション、物的資源、調達、変更管理など計画で取り決めた内容について実行していく上でのポイントや、継続的なノウハウの蓄積、共有といった知識マネジメントの概要がまとめられている。
デリバリー プロジェクトに期待される成果をあげ、価値を実現できる成果物を提供するために必要となる、要求事項の抽出、スコープ定義、品質といった活動の概要がまとめられている。
測定 プロジェクトの予定と実績を比較し、パフォーマンスの改善につなげるためには、何をどうやって測定し、その測定結果をどう活用するか、また、測定する上で何に注意すべきかの概要がまとめられている。
不確かさ プロジェクトに存在する不確定要素(不確かさ、曖昧さ、複雑さ、変動性)やリスクについて、どのように分析し、対処するかの概要がまとめられている。

この8つのパフォーマンス領域を参考にすることで、プロジェクトをマネジメントする上でどのようなことに気をつければ良いかが把握でき、考慮漏れを防ぐことができます。

モデル、方法、作成物について

PMBOK®︎ガイド第7版の4章「モデル、方法、作成物」では、プロジェクトマネジメントでよく使われる、モデル、方法、作成物についてまとめられています。

モデル

マネジメントでよく使われるフレームワークが紹介されており、どのパフォーマンス領域で活用できるかが以下のような表でまとめられています。
表で「X」となっているものがそのモデルが活用できるパフォーマンス領域です。

「PMBOK®︎ガイド第7版 表4.1」より抜粋
モデル パフォーマンス領域
チーム ステークホルダー 開発アプローチとライフサイクル 計画 プロジェクト作業 デリバリー 測定 不確かさ
状況対応型リーダーシップ・モデル
SLII®︎ X X
OSCAR X X

方法

データ収集・分析、見積り、会議など、プロジェクトマネジメントのさまざまな場面でよく使われる手法が紹介されており、どのパフォーマンス領域で活用できるかが以下のような表でまとめられています。
表で「X」となっているものがその方法が活用できるパフォーマンス領域です。

「PMBOK®︎ガイド第7版 表4.2」より抜粋
方法 パフォーマンス領域
チーム ステークホルダー 開発アプローチとライフサイクル 計画 プロジェクト作業 デリバリー 測定 不確かさ
データ収集・分析方法
代替案分析 X X X X
前提条件・制約条件分析 X X X
ベンチマーキング X X

作成物

プロジェクトマネジメントでよく使われる文書などの作成物が紹介されており、どのパフォーマンス領域に関係したものかを以下のような表でまとめられています。
表で「X」となっているものがその作成物が関係するパフォーマンス領域です。

「PMBOK®︎ガイド第7版 表4.3」より抜粋
作成物 パフォーマンス領域
チーム ステークホルダー 開発アプローチとライフサイクル 計画 プロジェクト作業 デリバリー 測定 不確かさ
戦略文書
ビジネス・ケース X X
プロジェクト概要 X X
プロジェクト憲章 X X
プロジェクト・ビジョン記述書 X X
ロードマップ X X X

4章「モデル、方法、作成物」では、残念ながらサンプル、テンプレートまでは記載されていませんが、パフォーマンス領域毎にどのようなフレームワーク、手法、文書があるのかを見つけることができます。
プロジェクトのニーズに合わせて、このパフォーマンス領域のマネジメントを手厚くしたいけど、何か良い管理方法はないかなと思った時に、まずはこの「モデル、方法、作成物」で、使えそうなフレームワーク、手法、文書を探してみてはいかがでしょうか。
なお、サンプルやテンプレートについては、PMIが公開している「PMI standards+™️」サイトや、検索サイトで、フレームワーク名、手法名、文書名をキーに探してみると良いかと思います。
(PMI standards+™️はまだ英語のみの情報ですが、日本語コンテンツも追加しようという話があるそうです)

おわりに

PMBOK®︎ガイドは、第6版では対象者が主に「プロジェクトマネージャ」であったのに対して、第7版ではプロジェクトオーナー、スポンサー、プロジェクトチームメンバー、そして、プログラムマネージャ、ポートフォリオマネージャ、プロダクトマネージャなども含めた「プロジェクトに関わるすべての人」となっています。
第7版では、HowTo的な内容を無くし、プロジェクトマネジメントの基本的な概念や考え方に焦点を絞って説明していますが、これはプロジェクトマネジメントを進めていく上でプロジェクトに関わるすべての人が共通の理解を深めるためにPMBOK®︎ガイドを役立ててほしいという意図もあるのではないかと思います。
PMBOK®︎ガイドだけでは実務に活用するのは難しいかもしれませんが、PMBOK®︎ガイドをとっかかりにして、「PMI standards+™️」なども合わせて実務に活用していければ良いなと思います。