2022/06/29
プロジェクトマネジメントからプロダクトマネジメントへ 〜 PMBOK7にみる新しいプロマネ像 〜
目次
はじめに
こんにちは、システム開発グループの鈴木です。
以前、PMBOK®︎ガイド第7版についての記事を書きましたが、今回は第7版の付属文書について少し紹介したいと思います。
PMBOK®︎ガイドでは、その版で重要と思われる内容についての補足情報が、付属文書として巻末に記載されます。
第7版では、付属文書 X4として「プロダクト」についての記載があり、プロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントとの関連について説明されています。
第6版以前のPMBOK®︎ガイドでは、プロジェクトマネジメントと、プログラムマネジメント、ポートフォリオマネジメントとの関係は明記されていましたが、プロダクトマネジメントとの関係は明記されておらず、第7版で初めて明記されるようになりました。
本記事では、その付属文書の概要とそこからみえるプロジェクトマネージャに求められるものについてお話をしたいと思います。
市場の変遷とプロジェクトへの影響
PMBOK®︎ガイド第7版の付属文書 X4では、「プロダクト」について以下のようなグローバル市場の変遷とプロジェクト実務への影響が説明されています。
グローバル市場の変遷
以下の3つのグローバルな変化が、従来のビジネス・モデルを崩壊させ、プロダクトとサービスを変容させていると付属文書 X4ではまとめられています。
1.顧客中心主義(組織と顧客の関係の変化) |
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組織はプロダクトを開発し顧客に売り込むという従来のモデルから、組織は顧客ロイヤリティ(顧客のプロダクト、サービスへの信頼や愛着)を理解し、顧客ロイヤリティを提供、維持するように変化した。 組織はさまざまな顧客データや顧客の要求事項を収集し、潜在的なプロダクトの開発・改善、クロスセリング(検討しているもしくは既に利用している商品、サービスとは別の商品、サービスも購入を促すこと)への活用などのため、これらを分析・使用するようになっている。 |
2.ソフトウェアで強化された価値(ソフトウェアの普及) |
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インターネット通信や無線通信の進歩と、ハードウェアの進歩により、乗物や住宅の制御や、ありふれた電化製品などまで、ソフトウェアによる新しい機能の提供や、利用データの収集をするようになっている。また、ほとんどの組織が、ビジネス上の取引をWebサイトやWebアプリを利用して電子的に行っている。 これらのシステムは継続的に更新、維持し続ける必要があり、そのプロダクトやサービスが撤退するまで開発が継続する。 |
3.継続的な提供と支払い(経済モデルの変化) |
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売り切り、買い切りであったサービスは、各種サブスクリプションサービスとして、継続的な提供と支払いに置き換わりつつある。 |
プロジェクトへの影響
また、グローバル市場の変遷に伴い、プロジェクトでの成果提供について以下の影響がでていると付属文書 X4ではまとめられています。
- グローバルでは、プロジェクトで成果物を1回だけ提供するモデルから、継続的に提供するモデルに移行が進んでいる。
- 単一のプロダクト、単一の変更、単一のサービスを提供する有期的なプロジェクト構造に代わり、顧客志向や急速な技術の進化を認識し、優良顧客への継続的なサービス提供をしつつ収益が得られる提供モデルを模索する組織も増えてきている。
- 価値実現のためのプロダクトマネジメント・ライフサイクルへの関心が高まり、長期的なライフサイクルの考えを持ち、永続的なチームでプロダクトをサポート、維持し、継続的に進化させるプロダクトマネジメントの提供モデルを採用するようになってきている。
つまり、世の中(グローバル市場、ビジネス・モデル)がステークホルダーの価値実現をするための継続的なプロダクト、サービスを提供するように変わっていったことにより、プロジェクトマネジメントも短期的で1回限りのアウトプットをするものから、プロダクトマネジメントと融合して、長期的で継続的に成果(アウトプットではなくプロジェクトによりもたらされる効果)を提供し、価値を実現することを目標とするようになってきている、ということですね。
こういう背景があって、PMBOK®︎ガイドの第6版までの「成果物を重視」から第7版での「成果や価値を重視」という基本理念になったのだと思います。
これからのプロジェクトマネージャに求められるもの
PMIタレントトライアングル (PMI Talent Triangle®)
PMBOK®ガイドを発行しているPMI®(米国プロジェクトマネジメント協会)は、プロジェクトマネジメントを実施するうえで必要なスキルセットとして、「PMI Talent Triangle®」を提唱しています。
なお、このタレントトライアングルは今年になって改訂されたものです。
「PMI Talent Triangle®」では、プロジェクトマネジメントで十分な力を発揮するには、以下のような3つのスキルカテゴリーが必要であるとしています。
1.Ways of Working(働き方、仕事の進め方) |
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プロジェクトの開発アプローチは、予測(ウォータフォール)型、適応(アジャイル)型、ハイブリッド型、デザイン思考など、現在でもさまざまな手法があり、今後もどんどん新しい手法は増えていくことは明らかである。 だからこそ、プロジェクトマネージャはできるだけ多くの仕事の進め方をマスターし、適切なタイミングと適切な手法を適用することが、成果をあげるために必要となる。 |
2.Power Skills(パワースキル) |
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従来のリーダーシップだけでなく、協調的リーダーシップ、コミュニケーション、革新的マインドセット、目的志向、共感力といった対人関係スキルを身につけ、さまざまなステークホルダーに対して影響力を持ち続けることが必要となる。 |
3.Business Acumen(ビジネス洞察力) |
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ビジネス感覚、組織や業界におけるマクロとミクロの影響を理解し、適切な意思決定を行うための知識を持っていること。 効果的な意思決定ができるような能力を培い、自分のプロジェクトが、組織戦略やグローバルな潮流といった全体像に対して、どのような位置付けにあり、整合性が取れているかを理解する能力が必要である。 |
「3.Business Acumen(ビジネス洞察力)」でも挙げられていますが、プロジェクトマネージャは、目の前のプロジェクトでアウトプットだけを注視するのではなく、そのプロジェクトが含まれる、プロダクトマネジメントでの成果や価値の提供など、より大局的に捉える視野を持つことが、とても重要視されてきているということですね。
おわりに
PMBOK®ガイド第7版の日本語版が2021年10月に提供され、だいぶ色々な情報が提供されるようになりました。ただ、第7版からはHowTo的な内容ではなく概念や考え方をまとめたものとなっており、具体的な方法論やテンプレートなどは「PMIstandards+™」というデジタルプラットフォームを参照してくださいとなっていて、残念ながら英語での情報提供のみです。
デジタルプラットフォームでは今後も新しい参考情報などが増えていきそうですので、役に立ちそうな情報を見つけましたら、また紹介できればと思います。