カスタマージャーニーワークショップを開催しました

はじめに

こんにちは。フロントエンドエンジニアのKimuraです。

2024年3〜4月にかけて、社内でカスタマージャーニーワークショップを開催しました。計5時間・完全オンラインでのワークショップとなり、合計30名が参加しました。

本記事ではワークショップの内容とともに、開催後の実業務における活用事例も合わせてご紹介していきます。

業務に活かすためのワークショップ

「方法」を学ぶことを目的とする

本ワークショップではカスタマージャーニーに初めて触れる方を対象として、業務で活用するための方法を身に付けてもらうことを目的としました。

カスタマージャーニーとは、顧客が商品・サービスと関わり意思決定する過程を旅にたとえたものです。 買い手である顧客視点を考えることで、UXの洞察を得て施策につなげていくことが可能となります。

前提として、アトラスにおいては、2023年に部署を横断したカスタマーサクセス会という取り組みが実施されました。 そこでカスタマージャーニーについても軽く取り上げられており、概念は知っている人が多かったので、実際にどのような方法で作成し業務に活かすか知るという部分に重点を置きました。

架空の題材を使用し、サービス間の混成チームに対応

カスタマージャーニーのワークショップでは、自社に関わる商品・サービスを題材とするケースがメジャーかと思われます。 そのうえで、今回はあえて架空の題材を用意し、自社サービスに関連しないカスタマージャーニーマップを作ってもらうという構成にしました。

アトラスでは学術に関する4つのサービス(学術大会支援、学会向け会員管理、ジャーナル支援、ORCID関連)を取り扱っており、参加者はそれぞれの担当部署に所属しています。 特定のサービスを取り上げると人数調整が難しかったり、参画したばかりであっても業務知識の差に躊躇せず参加してもらいたいという背景により、今回は上記の方針としました。

【前半】ワークショップ形式を体験

1〜2回目は、広く実施されているカスタマージャーニーワークショップの形式を踏襲したワークを実施しました。

「カスタマージャーニーに触れるのは初めて」という参加者も多かったため、ここではカスタマージャーニーマップを「作る」ことを主眼に置きました。

1. 題材となるサービスの説明

今回は架空のBtoB食品配達サービスを題材にしました。

どのようなサービスで、どんな顧客をメインターゲットにしているのか、カスタマージャーニーのスタートとゴールはどこなのかを説明しました。

2. ペルソナの作成

企業ペルソナと個人ペルソナ、それぞれを作成し、チームごとにペルソナシートにまとめていきました。 まずは個人で考えて特徴を書き出してもらい、その後チームですり合わせる流れとしました。

ワークショップ形式 企業ペルソナ
ワークショップ形式 担当者ペルソナ

3. カスタマージャーニーマップの作成

Googleスライドで作ったテンプレートを使って、ペルソナを前提にカスタマージャーニーマップを作成しました。 こちらもまずは個人で顧客行動を書き出し、その後ディスカッションをしながらマップにまとめてもらう工程をとりました。

参考のためサンプルのカスタマージャーニーマップスライドを1枚入れており、利用しそうなアイコンもあらかじめスライド内に用意しておきました。

ワークショップ形式 カスタマージャーニーマップ

4. 施策のまとめ

最後に、作成したカスタマージャーニーマップを参考に、目的に沿った施策をまとめていきました。

ワークショップ形式 施策

【後半】データ先行形式を体験

3〜4回目は、データを基にした分析をワークへ落とし込みました。実際には自動分析で進めることが多いと思いますが、今回はサンプルデータを元にディスカッションで分析していくという構成にしています。

カスタマージャーニーマップは一度作成しているので、このワークでは「活用する」をテーマに、より現実の場面に近いワーク背景を用意しました。

1. 題材となるサービス・状況の説明

今回は架空の宿泊施設を題材に、従業員が顧客アンケートを分析するというシチュエーションを設定しました。

顧客アンケートから施策を導出し、プレゼンに向けた資料として、施策を現在・理想のカスタマージャーニーマップに落とし込むというフローでワークを行いました。

2. アンケートの確認、ターゲット軸の決定

今回はサンプルとして12組の宿泊客のアンケートを用意し、データを元に顧客満足度を向上させたいターゲット軸を決定していきました。
データ先行形式 アンケート
データ先行形式 ターゲット

3. 対象データの分析、施策のまとめ

ターゲット軸に含まれるデータを1人1つ選択し、不満を持った経緯と原因を個人で考えていきました。 その後個人ワークを共有して、担当データの共通点と、そこから考えられる施策をまとめていきました。

データ先行形式 個人分析
データ先行形式 共通点と施策

4. ペルソナと現在・理想のカスタマージャーニーマップの作成

最後はプレゼンのための資料を前提として、ペルソナと現在・理想のカスタマージャーニーマップを作っていきました。時間の都合上、実際のプレゼンは行いませんでした。

なお、ペルソナのイメージにはChat GPTで作成した画像を使ったチームもありました。

データ先行形式 ペルソナ
データ先行形式 現在のカスタマージャーニーマップ
データ先行形式 理想のカスタマージャーニーマップ

ワークショップで工夫したこと

ワークショップを実施するための方法について、工夫をした部分をご紹介します。

週1で各1時間、全5回開催

今回は1回1時間のワークショップを、全5回かけて行いました。

全30人の参加者を半々の2グループに分け、グループごとに異なる時間帯で毎週実施しました。 各グループ内で3人ごとのチームをあらかじめ決め、計10チームがそれぞれのワークを進めていきました。

各チームには覚えやすさのため、あらかじめ「ときわ」「アイビー」などのチーム名を付けました。アトラスのコーポレートカラーはもえぎ色のため、それにちなんで和洋の緑色から名前を選びました。

事情により特定の回に参加できないメンバーがいる場合、チームごとに本来の日程からワーク時間をずらすか、またはそのメンバーを除いてワークを行うかは、チームごとの選択制としました。 結果的に特定メンバーを除いてワークを行ったチームはなく、該当した全チームがワーク時間をずらして進めていました。

なお、開催期間が長すぎると参加者の時間確保が難しいという観点から、2つのワークと振り返りを合わせて計5時間と設定しました。

完全オンラインで実施

アトラスはリモートワークをベースとした働き方であるため、ワークショップはGoogle Meetを利用した完全オンライン開催としました。

チームごとのワークでは、Google Meetのブレイクアウトルーム機能を活用しました。運営は数分ごとに各チームを回り、質問対応や補足を行いました。 Googleカレンダー上でミーティングへの「参加」を選択してもらうことで、対象者が入室していなくてもブレイクアウトルームの割り振りが可能となります。これにより当日の運営の操作が楽になるため、事前の「参加」について全体に促しました。

また、後述の事前録画の再生では、画面共有の「タブを共有」を利用して音声も含めて共有するようにしました。

ワークショップの様子

ワークの説明には事前録画を活用

当日は口頭説明をほぼ行わず、代わりにワークの説明をしている事前録画を流しました。

この狙いは3点ありました。

1点目は、ワーク説明の標準性・公平性を担保するためです。今回は開催時間を分けた2グループに対して同じワークを展開する構成となっており、これに加えてチームごとに特定の回の開催時間をずらすというパターンも想定されていました。このため、どの回に参加していても同じ説明になり、運営がいなくてもワークを進めることができるように、あらかじめ動画を用意することにしました。

2点目は、今後ワークショップを再開催することを容易にするためです。新規参画したメンバーで同様のワークショップを行ったり、題材を変更して2回目の開催を行う場合に、説明が具体的に残っていることで準備コストが削減できます。

3点目は、当日の運営の負担減のためです。ワーク当日はブレイクアウトルーム関連の操作と並行しながら時間内に進行させていく必要がありました。そのため説明を自動再生として、その時間を操作に当てることが効率的だと考えました。

ただし、先行のグループで参加者の認識齟齬が多かった箇所については、動画の再生後に随時補足を入れるようにしました。

ドキュメントはNotionを利用

社内でのドキュメント管理にはNotionを利用しているため、このワークショップにおいても、各チームのワーク用ページをNotion内に作成しました。

ワークページ一覧

また、カスタマージャーニーマップの作成にはGoogleスライドを利用しています。カスタマージャーニーマップのテンプレートは、サイズを横長にして用意しました。

開催後の社内活用

ワークショップ開催後、各部署で自主的に実業務でカスタマージャーニーの考え方を用いた取り組みが始まりました。
メンバーがワークショップに参加した感想を添えて紹介します。

Confit

Confitは、易しいシステムと優しいサポートで学術大会を成功に導くサービスです。

Confitではシステム運用を通じたサービス活用の理想と現状とのギャップを明らかにする手段として、カスタマージャーニーマップを作成しました。

これまでは顧客がどのようにサービスを活用するかを明確に定め切れていなかったところがあり、「理想のサービスの姿」の目線を合わせづらいところがありました。

理想のカスタマージャーニーマップを定めたことにより、ブレが起こりづらいサービス設計ができるようになりました。

Confit カスタマージャーニーマップ

顧客接点や感情変化を意識してサービス運用の流れを点検できるため、どこに課題があるのかを非常にイメージしやすい手法だと感じました。このイメージのしやすさが効果を発揮し、メンバー同士の議論も非常に活発なものにできました。

SMOOSY

SMOOSYは、180を超える学会の皆様にご利用いただく学会に特化したオンライン会員管理サービスです。

SMOOSYでは、システム導入のオンボーディング施策検討のため、ワークショップ形式のカスタマージャーニーを用いました。

はじめにオンボーディング期間を定め、導入の最初に行う打ち合わせからオンボーディング期間終了までの現在のマップを作成しました。
その後、現在のマップを改善するために必要な施策を顧客行動に足して、理想のカスタマージャーニーマップを作成しました。

顧客がスムーズにオンボーディングを終えるために必要な施策を検討できた他、現時点で顧客の課題となっているポイントはどこか、という現状分析にも繋がりました。

SMOOSY カスタマージャーニーマップ

まず、現状の運用で問題となっている点や顧客の立場に立った心情を洗い出すことで、理想のマップを作成するための施策の検討がしやすくなりました。
ゴールに到達するためには何が必要か、意識しながら施策を検討することで、チーム内で目的がぶれることなくディスカッションを進めることができました。

最後に

本ワークショップの企画は、フロントエンド・デザインワーキングという取り組みから始まりました。

弊社のシステム開発グループで2021年から継続しているもので、個人でテーマを決めて週1時間資料をまとめるという活動を行っています。詳しくは過去の記事をご覧ください。

私は現在フロントエンドエンジニアが主業務なのですが、デザイナーをしていた時期もあり、デザインに関する取り組みを始めたいと考えました。
また、以前社内でデザイン関連のワークショップに参加したという話を聞いたことから、ワークショップの開催にも興味を持っていました。
そこで、UXを考えるときに用いられることが多いカスタマージャーニーマップをテーマとしてワークショップを行うことを思いつきました。

開催にあたっては、足掛け5ヶ月の準備期間を経て多くの方にご意見をいただいたとともに、関連書籍・サイトを参考にしながら企画を進めてきました。
ワークショップ開催と社内展開の一例として、本記事が役立てば幸いです。